五郎の山だより

 「五郎の山だより」 今回は、今年二度目の槍ヶ岳です。

 前回の7月には雨の中をただひたすら修験者よろしく歩くだけでしたが、天気予報で晴れを確認しての今回は、朝から気温もグングン上がる好天でした。

 朝6時に新穂高で登山届けを提出し、白出の分岐で7:10着、急登ばかりが続く奥穂への白出沢ルートと違ってなだらかな槍への山道は軽快に進み、滝谷出合には8:15到着でした。この季節にもなると雪渓はずっと後退し、遠くわずかに見えるだけとなっています。

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<滝谷出合>

 写真(上)では霞んでいますが、滝谷ドームまで見ることが出来ました。大雨の影響でしょうか前回7月の時の木橋は流され、50mほど上流に架け替えられていました。

 東側に3000m級の高山を抱えるこのルートは、日の射すのが遅く、涼しいうちに距離を稼ぐことができます。槍平小屋に着いたのは9:10、 ようやく "日の出" になりました。
 ここ槍平には冷たくてとてもおいしい湧き水があります。眺望が楽しめるわけでもないこのキャンプ地にテントをいつも見かけるのは、このおいしい水のせいでしょうか。 ここを通る際、私はいつも空のボトルを一つザックに入れて行くことにしています。ここで水の補給をするためですが、持参してきた塩素混じりの水道水をも入れ替え、きつくなってくる登りに備えます。あなどるなかれ、ここの水一つで登る勇気すら沸いてくるのです。下山の時には頭から浴びることを想像しながら・・・・・。

 秋の花ミヤマトリカブトが咲き乱れる槍平から千丈分岐点まで来ると、景色が変わってきます(10:20)。赤くはないものの "黄葉" が緑にアクセントを付けていきます。

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<千丈分岐から見上げた西鎌尾根>

 写真(上)の、尾根中央一番高いあたりに槍ヶ岳山荘が見えます。そのやや左のあるトンガリは "西鎌のニセ槍" で、千丈分岐手前あたりから見え始めるので、知らない登山者による 「槍が見えた!!」 で賑わう地点でもあります。
 森林限界を越え、つづら折れを繰り返して道がガレてくると飛騨乗越まであと少しです。飛騨乗越といえば最高所の峠として有名ですが、今ではここから信州へ下りる道はほぼなくなっていて、その名が失われつつあるのが寂しいところです。そうは言いつつもここに立てば信州側を一望でき、その高度感に圧倒され、峠としての臨場感は他に類を見ないと言えるでしょう。

 15分ほどで槍ヶ岳山荘までたどりつくとちょうど正午。晴天によるものか、9月頭の平日としては人出が多いように感じられ、ふと槍ヶ岳に目をやると------、そこには登山者が列を成してと攀じっています!

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 渋滞に巻き込まれまいと15分ほど待って登り始めたつもりが最後のハシゴで追いついてしまい、やはり待たされされるハメに。 頂上に着いてもその場から動けず、祠へのお参りはおろかハシゴの脇に立ち尽くすばかり・・・・。
 この日は風もあり、そこは3000メートルを越える吹きっさらし。体感温度10℃以下ともあって長居は無用とばかりに 「団体さん」 は早々に下っていったので、ようやく "お山の大将" になれたのでした。

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<北向き 槍ヶ岳山頂の祠>
祠の後ろに見えるのが北鎌独標、その右上の尾根が燕岳からくる表銀座コース

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<北鎌独標の拡大>

 北鎌尾根を眺める時はいつも、「風雪のビバーク」(新田次郎著『風雪の北鎌尾根』のモデル)が脳裏に浮かびます。若かりし頃、その結末に涙したものです。

 雲も多く大展望とまではいかなかったものの、ミニパノラマをご紹介しましょう。

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左側の燕岳から右(南)へ伸びる表銀座。その中央に位置するのがこの大天井岳。

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<東向き>
大天井を奥(コチラから見て)へ進むと常念岳、手前の表銀座コースをたどると西岳へ。そこから槍ヶ岳に向かって伸びてくるのが東鎌尾根。

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常念岳から南下する蝶ヶ岳・長塀尾根・徳澤下山コースや、大滝山から徳本峠へ抜ける縦走路など。写真中央下の赤い屋根が東鎌尾根上にあるヒュッテ大槍。

 180度振り返ると、その足元に 「小槍」 が。

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"アルペンおどり" を踊るにはそれなりの勇気と技術が必要です。

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「小槍」 から顔を上げていくと左側から西鎌尾根が雲の中の双六岳へと続いています。(右へ伸びる赤茶けた尾根は硫黄尾根。一般向ルートはありません)

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西鎌尾根が双六岳から槍ヶ岳へと通じ、その合流点に槍ヶ岳山荘があります。

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<南向き>
山頂まで伸びるハシゴの向こうには、南岳からくる横尾尾根と天狗原、そして氷河公園にはまだ雪渓が残っているのが見えます。その後ろには前穂からの北尾根が伸び、その先端には屏風の頭が見えています。更にその後ろには大滝山から徳本峠へと続く中村新道の尾根が、霞んでいますがうっすらと見えています。

 この日は残念ながら大喰岳以南はガスの中で、北穂・奥穂はいづれも見ることができませんでした。が、ガスっている日にはいいこともあるようで、下山し始めてすぐにライチョウの親子に出会うことができました。

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下山ルートを先導してくれた心やさしいライチョウくん。そういえば長野県警のマスコットも雷鳥がモデルの「ライポくん」でしたっけ。・・・もしかして山岳警備隊員 !?

 後半は、秋の高山植物の数々をご紹介。

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まだまだ元気なウサギギク

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白く輝くウメバチソウ

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こちらでも全盛のミヤマトリカブト

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小さくてかわいいミヤマリンドウ

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秋の代表格 オヤマリンドウ

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実を結んだクルマユリ

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黄色かったイワベンケイが真っ赤に変身

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紅葉はしていないものの、実が色づき始めたナナカマド

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艶やかな双子の赤い実がかわいいオオヒョウタンボク

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7月には神秘的な赤紫の花を無数に咲かせていたベニバナイチゴも、大粒の実をつけました。

 今回も一日だけの山行でしたが、そこにはステキな花たちが咲き、すばらしい景観を見ることもできました。残暑キビシイ街なかではまだまだ想像できない秋が、山には着実にやってきていました。
 そこにあった鮮やかな実りは鳥や小動物たちへの山からの贈り物であり、彼らが冬を越すための糧となることでしょう。しかしそれは人の一生では決して見届けることのない永い年月を重ね、山が緑であり続けるためのプロセスの一瞬を見ているに過ぎません。筆舌をつくしても表せないほどのこのいとおしい風景が、次の世代以降にも美しいままであってくれることを願ってやみません。

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